京都地方裁判所 平成3年(行ウ)7号 判決 1993年1月29日
原告
藤村勉
右訴訟代理人弁護士
岩佐英夫
同
井関佳法
被告
宇治税務署長
林素也
右指定代理人
山口芳子
主文
一 被告が原告に対して平成元年四月二五日付けでした原告の昭和五九年三月分、同六二年四月分、同年一〇月分、同六三年七月分の物品税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨。
第二事案の概要
一請求の類型(訴訟物)
被告は、原告が製造し移出した競争用自動車を物品税課税物品に該当するとして、物品税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をした。本件は、原告が、右自動車は課税物品でないと主張して、右各処分の取消を請求するものである。
二争いのない事実
1 原告は、競争用自動車の製造販売業を営む者である。
2 原告は、競争用自動車四台(以下、本件各自動車という)を製造し、移出した。被告は、これらが旧物品税法(昭和六三年一月三〇日法律第一〇七号による廃止前のもの。以下、同じ)の別表「課税物品表」の第二種七号にいう小型普通乗用四輪自動車に該当するとして、原告に対し、平成元年四月二五日付けで、別表のとおり、主文記載の物品税の各決定処分、無申告加算税の各賦課決定処分をした。
第三争点とその主張
一争点
本件各自動車が、右課税物品表の第二種七号にいう小型普通乗用四輪自動車に該当するか否か。
二当事者の主張
1 被告
(一) 本件各自動車は、競争することを目的とするが、これは、運転者を乗せてある地点から他の地点に移動することを本来的目的とするものといえる。したがって、これらは乗用装置を有し、主として人を運ぶ目的を有するので、乗用自動車であり、本件各自動車は小型普通乗用四輪自動車に該当する。
(二) 課税物品表に掲げられる物品への該当性は、当該物品の性状、機能及び用途等を総合して判定すべきである。特殊自動車として道路運送車両法により登録されるものは、一般的に乗用自動車に入らないものである。
2 原告
(一) 本件各自動車は、サーキットレース場内を一定の距離に達するまで如何に速く走るかを目的とするものであり、一般公道を走ることを目的とせず、またそのための装備、機能もない。
(二) 課税物品表にいう「普通」乗用自動車とは、車の用途、機能に着目した用語である。すなわち、通常人が利用し、乗用自動車として期待する性状、用途、機能等を備えた自動車を意味する。したがって、本件各自動車は、「普通」とも「乗用」ともいうことができず、小型普通乗用四輪自動車に該当しない。
第四争点の判断
一小型普通乗用自動車の判定基準
1 旧物品税法上の掲名
(一) 自動車について物品税が課される第二種物品として、課税物品表の七番に以下のように記載されている。同表第二種(1)普通乗用自動車、キャンピングカー及びキャンピングトレーラー、(2)小型普通乗用四輪自動車(小型キャンピングカー、小型キャンピングトレーラーを含む)、(4)軽普通乗用四輪自動車、(5)乗用兼用貨物自動車、(6)雪上スクーター、(7)小型乗用三輪自動車。
(二) 物品税は、課税物品表に掲名されているものに課税される。これを掲名主義という。
そして、この課税物品の所属決定の方法につき、旧物品税法の課税物品表の適用に関する通則二後段に「その物品については、これに性状、機能、用途その他についての重要な特性を与える物品のみからなるものとみなす」と規定し、一般に認識される物品名をもって判定されることを明らかにしている。
(三) 他方、旧物品税法九条は、課税物品表に掲げる物品のうち「特殊な性状、構造若しくは機能を有することにより、一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して物品税を課さないことが適当であると認められるものとして政令で定めるものについては、物品税を課さない。」と定めている。
(四) 旧物品税法基本通達には、「電波測定車、無線警ら自動車、道路管理用緊急自動車、放送宣伝用自動車、救急車、移動レントゲン車、移動図書館車等特殊な構造等を有するもので、陸運事務所の登録基準により特殊自動車として登録されるものは、普通乗用自動車等としては取り扱わない。」旨が定められている(<書証番号略>)。
2 検討
(一) 課税物品表に掲名されている物品への該当性は、社会通念に照らし、他の法令による名称及び取引上の呼称等にかかわらず、当該物品の性状、機能及び用途等を総合して定めるべきである。
(二) 被告は、普通乗用自動車とは、前掲一1(1)のうちのキャンピングカー、キャンピングトレーラー及び同(5)ないし(7)のとおり掲名された以外の乗用自動車を指し、掲名のない貨物自動車を含まないと主張する。そして、前1(四)の通達指定の自動車は、乗用自動車に該当しない特殊自動車、又は、乗用自動車に該当するとしても、前示1(三)の旧物品税法九条によりとくに課税物品として取り扱わないとしたもの(覆面パトカー等)である。後者は、課税物品表に掲名された(小型)普通乗用自動車に該当しないことを示すものではない、という。
(三) しかし、特殊自動車以外の乗用自動車がすべて旧物品税法上の課税物品であることを示す明確な根拠がない。
旧々物品税法(昭一五・三・二九法律四〇号)一条第二種甲類十四には、「乗用自動車」と掲名されていた。その後旧物品税法は課税物品表により前示のとおり普通乗用自動車、小型普通乗用自動車等が掲名された。
そして、旧物品税法は、原則課税(ネガリスト)でなく、原則不課税で、法律に掲名した物品のみ課税するものである(ポジリスト)(<書証番号略>)。
このような立法経過、旧物品税法の性質、並びに租税法律主義の見地と社会通念に照らすと、旧物品税法に掲名された小型普通乗用自動車は、被告主張のように乗用自動車と同義ではなく、その「普通」は、特殊な自動車でないとの意味をもつというべきである。とすれば、同法九条の特殊な性状、構造若しくは機能とは、普通乗用自動車に該当するがなおその中で特殊な性状等を有するものをいうと考えるほかない。
そして、普通乗用自動車とは、一般公道を普通に通行しうる機能を有する、主として人の乗用に供する自動車であると解すべきである。
そこで、以下に本件各自動車が、その性状、機能及び用途等を総合してこの普通乗用自動車に該当するか否かを検討する。
二本件各自動車の性状、機能、用途等について
証拠(<書証番号略>、検証、原告本人)、弁論の全趣旨によれば、本件各自動車の装備等について、以下の各事実を認めることができる。
1 性状等について
(一) 普通の乗用車にはハンドルにかなりの遊びがあるのに比べ、本件各自動車にはこれがない。
(二) 瞬時の操縦に対応するため、普通の乗用車に比べて、アクセルペダルやブレーキペダルの踏みしろが少なく、クラッチペダルの遊びも少ない。
(三) 運転席には六点式ベルトが取り付けられている。
(四) 運転席前部にはイグニッションスイッチ、フェールポンプスイッチ、テールランプスイッチ、スタートボタンがある。
(五) ばねが非常に固いため、乗り心地は極めて悪い。
(六) タイヤは、本件各自動車の車重四〇〇キログラムにあわせた特殊なものを使用し、これは一般公道を走る普通自動車のように重量のある車両では使用できない。
2 機能、装備について
(一) 本件各自動車は、一人乗りで、ヘッドライト、方向指示機、ブレーキランプ、クラクションの装備がなく、最低地上高は、一般公道を走る普通乗用車が約一五センチメートルあるのに比べ、約三センチメートルにすぎない。
(二) 運転席前部には、エンジンの回転数を示すタコメーターと、冷却水の温度を示す水温計があるが、スピードメーターの装備はない。ブレーキペダル、アクセルペダル、クラッチペダルの間隔が極めて狭い。
(三) 一般公道を走る普通の乗用車と異なり、発電機の装備がなく、一度バッテリーの充電分を使い切れば、これを取替えるほかない。またエンジンは車体後部に設置され、これにはエアクリーナーの装備がなく、そのため、一般の乗用車に比べてエンジンの寿命が極端に短い。
(四) 前後左右ともドア及び窓ガラスがなく、天井等の覆いがない。
(五) 乗降は、いったんハンドルを外し上部から乗り、運転席に着席してからハンドルを取り付ける。
3 用途等について
(一) 本件各自動車は、社団法人日本自動車連盟が定める国内競技車両規則に則り設計、製造された、FJ一六〇〇と呼ばれるいわゆるフォーミュラーカーであり、専ら自動車レースに用いることを目的とする。
(二) 本件各自動車は、前認定2のとおり、一般公道を走る上での通常の安全装置が省略されている。そのため陸運事務所の登録基準に合致しない結果、乗用車としても、特殊自動車としても登録できず、一般道路の運行の用に供することができない。
(三) 本件各自動車は、自動車レース用に設計、製造されているため、これを運転して一般公道を走行することは、法律上許されないし、事実上も、著しく危険ないし困難である。
4 右1ないし3認定の各事実を総合すれば、本件各自動車は、運転者を乗せて走行する自動車であって、この点で乗用自動車に当る。しかし、その性状、機能及び用途等に照らして、サーキットレース場における自動車レースの用にのみ供される、特殊な用途の競争用の自動車であって、一般公道を通行することができないものと認められている。
したがって、本件各自動車は、その性状、機能及び用途等からみても専らサーキットレース場において競争用のマシン(自動車)として使用されるものであるから、小型普通乗用自動車に該当するとは認められない。
三よって、その余の判断をするまでもなく、本件各処分は違法であるから、これらを取消すべきである。
(裁判長裁判官吉川義春 裁判官中村隆次 裁判官佐藤洋幸)
別表
年 月 日
課税標準
納付すべき税額
無申告加算税
昭和59年3月分
1,985,000円
347,300円
34,000円
昭和62年4月分
2,298,000円
425,100円
42,000円
昭和62年10月分
2,434,000円
450,200円
67,500円
昭和63年7月分
2,146,000円
397,000円
58,500円
合 計
8,863,000円
1,619,600円
202,000円